【12】人生を変えた一冊『ザ・レイプ・オブ・南京』
『ザ・レイプ・オブ・南京〜第二次世界大戦の忘れられたホロコースト〜』(アイリス・チャン著)の洋書を読んでいなかったら、私は日本に移住していなかったでしょう。
この本は、日本帝国軍がアジア諸国を侵略した歴史と、その歴史的事実を隠蔽しようとしてきた戦後日本の姿勢などが書かれています。
私は短大生だった21歳の時にこの本を読んで衝撃を受け、「日本人」としてのアイデンティティが音を立てて倒壊したのを覚えています。
それまでの私は「あの子は日本人だから関わりたくない」とアジア人の生徒から陰口を言われた経験が中学生の時に一度あったくらいで、日本がアジア諸国を侵略したということはうっすら聞いたことがある程度でした。
私はアメリカで生まれ育った日系アメリカ人の二世ですが、日本で生まれ育った両親によって「日本人」として育てられ、日本語補習校にも通っていました。が、広島・長崎で原爆の被害を受けたことについては教えられても、日本が加害者だった歴史については一言も教わりませんでした。アメリカの現地校では、ナチスドイツによるホロコーストの歴史は徹底的に学ばされますが、日本人が犯した大虐殺については学びませんでした。
私は、家庭や日本人コミュニティでは「意見をはっきり言うから日本人らしくない」と批判され、アメリカでは「アジア人」として見下されたり「日本人だからちょっと他のアジア人より上」に見られたり、アジア人の一部からは「日本人」だからと言って毛嫌いされたりしてきました。両親からは中国人を馬鹿にするような言葉を何度も聞いたことがあり、私は仲の良い中国人の友達がいたものの、どこか差別意識を持つようになっていました。正直、どのコミュニティーにいても至らない存在で孤独でしたが、「日本人は他のアジア人より上」という位置づけは、両親から植え付けられた「日本人」としてのプライドと調和したので、私が自尊心を保つための手段の一つでした。
でもこの本を読んだ途端、それさえもが粉々に崩れ落ちました。「日本人」という看板を背負うということは、ドイツ人がナチスを連想させるのと同じように、残虐な侵略者というイメージがついて回るということ。しかも、ドイツ人は歴史を反省しているけれど、日本人はそれをなかったことにしようとしている。この差にも気づかずに「経済発展」を掲げてのうのうと生きる様は「裸の王様」そのもの。「恥知らず」とはこのことだと思いました。
私みたいな人間は一部の人からは「非国民」とか「愛国心が足りない」などという批判を浴びる対象だということは知っています。が、私は日本の良いところもたくさん知っていますし、本当は日本のことを純粋に好きでいたい。でも、それまでの自分も含め日本人の多くが過去の過ちを顧みない姿勢は醜く過ぎる。日本の全てを否定しているのありませんが、日本の良いところまで台無しにしてしまうほど致命的な欠点だと思うのです。
本当に日本のことが好きだったら、どんなに酷い過去でもその歴史も知ろうと思うのが自然だと私は思うのですが、なぜ日本人の多くは南京大虐殺や731部隊のことに無関心だったり否定しようとするのでしょうか。ここのところがとても不思議でなりません。
私は日本の隠蔽された歴史を学ぶためにアメリカから東京に引越し、大学に入って学び始めました。大学はとっくに卒業しましたが、勉強は死ぬまで続けます。今もこの本の和訳を読みながら、日本に移住しようと決意した頃を思い出しながら初心に帰っています。