【14】フレジエと 苺のショート 似て非なり
〝フランス版ショートケーキ〟とも言われる「フレジエ(仏:Fraisier)」を人生初めていただいた。慣れ親しんだ「日本の苺ショートケーキ」とは全く別物だった。
フレジエは、スポンジ生地に、苺とムスリーヌクリームを挟んだケーキ。ムスリーヌはカスタードやバタークリームを合わせたもので濃厚。苺の切り方もショートケーキによく見られる横に薄いスライスではなく、縦に切ってあり、見た目も食感も大きく異なる。
他のフレジエとの比較はできないけど、今回いただいたものに限った感想を述べてみる。
フランスに本店を構える「リベルテ・ブーランジェリー・パティスリー」のフレジエが入った箱。
大きな箱の角に佇む1ピースは、いつになく贅沢な光景。
苺の縦半分が伺える特徴的な断面が愛らしい。
カスタードクリームは甘めで、コーヒーが進み、普段は150mlでも余るのに、今回は足りなくなったほど。
食感においては「ショートケーキ」とは対照的。
こちらのフレジエは、素材の味と食感が個別に感じられた。アーモンドのビスキューイ生地はザラザラとした舌触りで、重量感のあるムスリーヌは主張する甘さ、「とちおとめ」はやや硬めで甘さより酸味が勝る印象。
ごちそうさまでした。
しかし「フランス版ショートケーキ」というと「日本のショートケーキ」とは別物。なぜそのような呼び方をするのか、モヤモヤが残った。
「フレジエの本質」を知るために、機会があれば、他店のものも試してみようと思ったが、その前にネットで検索。
Wikipediaフランス版によると「ガトー・オ・フレーズ」は苺を使ったケーキの総称。クリームを使用する「フレジエ」はその一種。
ちなみにGoogle検索によると「Fraisier Japonais(フレジエ・ジャポネ)」は〝日本版ショートケーキ〟という意味で"plus leger"(「比較的にライトだ」)と書かれている。なるほど。日本のショートケーキを基準に考えると、フレジエが重いと感じるように、フランス人からすると日本のショートケーキは軽いと感じるのか。やはりフレジエは「重い」ことが一つの特徴であることには間違いなさそうだ。
そもそもWikipedia英語版によると「Shortcake」は「もろいビスケット」に由来しているとか。「苺とホイップクリームを用いたショートケーキは今や世界中に普及しているが、北アメリカが発祥の地であるとされている。地域によってビスケットやスポンジ生地を使うなどの違いがみられる」。
ショートケーキのスポンジは「ふわふわであるのが正義」くらいに私は思っていたが、元々はもろくてサクサクだったのか。
ショートケーキという単語は1588年、イギリスのレシピ本に初めて登場したという。
「ストロベリーショートケーキ」としてレシピに苺が加わるのは1845年6月1日、米オハイオ州の新聞にて。その後、米フィラデルフィア州で1847年、レシピ本を通じて普及した。
Wikipedia日本語版によると「ヨーロッパに広く存在しているイチゴケーキは、「イチゴを使ったすべてのデザート」を意味し、ムースケーキもチーズケーキも、イチゴがあればイチゴケーキの範囲に入るという点で日本のショートケーキとは異なる。」
「スポンジケーキ+ホイップクリーム+苺」を日本に紹介して広めたのは不二家で、大正時代の1922年からのこと。
今や海外でも認知される「ジャパニーズ・スタイル・ショートケーキ」自体、日本独自の解釈から生まれた独特なスイーツなんだ。
そう考えるとフレジエを「フランス版ショートケーキ」と呼んでも差し支えないように思え、モヤモヤ解消。
次に気になったのは、なぜ日本の洋菓子は全体的に甘さが控えめで、日本人の舌はそれを美味しいと感じるのかということ。
面白い記事「日本人が『甘さ控えめ』を好むのは、米の影響だった!?」を発見。要約すると、欧米人に比べ、日本人は米をよく食べ、食事中に糖分を摂取しているから、デザートにさほど甘さを求めないという。
しかし同様に米をよく食べる中国、韓国、台湾、その他アジア諸国のお菓子を食べた際、「甘すぎる」と感じることがある。和菓子同様、昔は保存料として砂糖が使用された名残りだろうか。
アジアのスイーツで甘さ控えめなものも確かにある。豆花、芋園など。台湾のおしるこは、日本で食べるものよりはるかに甘さが控えめで、豆の旨味が感じられ美味しかったことを思い出す。
話を戻すと、苺のケーキには様々な見た目や食感のものが世界中に存在し、「日本のショートケーキ」はその中のひとつであることがわかった。当たり前のように食べてきた「ショートケーキ」も、他国と比較することで初めて見えてくる側面があり、実に奥が深い。