『きんしんかん:性加害のニワトリとたまご』

ある本がきっかけで、逃げるように東京に移住した日系アメリカ人の斎氣心。初めて心を開ける人に出逢うも、彼にDVをしてしまう。確執が長年ある母親のような自分に絶望した。原因は、母の「躾(暴力)」と女性ホルモンだと考え、低容量ピルYAZを服用したが、副作用で臨死した。古今東西の代替医療による精神治療を試行錯誤する中、幼児期に父親から受け始めた猥褻を自覚する。それでも問題が雪だるま化するため、両親に虐待の事実を問いただした。しかし己の被害を自他に明示できた瞬間、自分もきょうだいに性的加害をしていた記憶が蘇り...

【6】

「おはよう、あさひ。お父さんからめごめごしてもらったんだって?よかったねぇ。」と母親に抱き寄せられた私は混乱のあまり絶句した。直後の記憶はない。

 

その日を境に、彼女が両親の寝室で寝る頻度は減っていった。お腹が痛い時や熱が出た時などは例外だったが、必ず母親を真ん中に挟んで、ベッドの端に横になるようになった。その度に自問自答した「私はなぜ、こっち側で寝るようになったんだろう?あの怖い記憶は......」「あれは悪い夢」「そっか、そうだよね」。そう自分に言い聞かせても眠れないので、羊を数えたりしたけれど、そんなことをしても直ぐには寝付けなかった。

・・・

彼女は1983年、雪の降る日の明け方、ニューヨーク・マンハッタンのルーズベルト病院で、楠崎恵二と雅子の長子として生まれた。「あさひ」の名前は、父親が結婚する前に世界中を放浪するバックパッカーだった頃にみたヒマラヤ山脈を染めた朝焼けに感動して決めたという。父親曰く、あさひはハネムーンベビーで、待望の女の子だった。誕生した知らせを受けてどれほど喜んだか、直ぐに家族や友達に報告したかったけど、3時過ぎだったので朝が来るのが待ち遠しかったという話を子供の頃、耳にタコができるほど何度も聞かされた。自分は望まれた子供だったんだなと思えた。

 

父親は子供、最初は特に女の子が欲しかったらしいが、母親はもともと子供に興味がない人だった。でも、いざ自分の子供が生まれたら「かわいい」と思ったことに驚いたそうだ。母親曰く、あさひはほとんど泣かず、手間のかからない良い子だった。