『きんしんかん:性加害のニワトリとたまご』

ある本がきっかけで、逃げるように東京に移住した日系アメリカ人の斎氣心。初めて心を開ける人に出逢うも、彼にDVをしてしまう。確執が長年ある母親のような自分に絶望した。原因は、母の「躾(暴力)」と女性ホルモンだと考え、低容量ピルYAZを服用したが、副作用で臨死した。古今東西の代替医療による精神治療を試行錯誤する中、幼児期に父親から受け始めた猥褻を自覚する。それでも問題が雪だるま化するため、両親に虐待の事実を問いただした。しかし己の被害を自他に明示できた瞬間、自分もきょうだいに性的加害をしていた記憶が蘇り...

【26】安楽死は、彼を看取るまで一旦保留

彼と電話ではなした。

最近、YouTubeでハマってるチャンネル「ソフト・ホワイト・アンダーベリー(Soft White Underbelly)」のこと。LAの中心地にあるアメリカ最大級のスラム街スキッドロウSkid Row)で暮らす人々などにインタビューする約2000本の動画。それを全て一人で行う超一流写真家マーク・レイタ(Mark Laita)の活動に感銘を受けている。私も未来の子供たちが、家族などから性的虐待を受けずに安心して成長できる社会を創造する目的を持って活動していることなどを伝えた。

 

話の中で私が「長生きはしなくてもいいと思ってるけど、生きてる間にやれることをやる」と言った。先日、安楽死をしようと閃いたのでそのような言葉がでた。すると意外にも彼は強く反応した。

 

「長生きしなくてもいいってどういうこと?」

 

言葉に詰まる私に彼は不満そうに続けた。

 

「『一生かけて罪を償う』って言っていたのに」

 

私は2年前、別の男と関係を持ち、彼を傷つけた。その罪を一生かけて償うと言っていた。

 

「それは約束する」

 

「じゃあなんでそんなこと言ったの?」彼は珍しく容赦ない。

 

「いやその、ダラダラと生きて建設的なことを後回しにしてしまうよりも、期限を決めてやることをやった方がいい、と思ったから」

 

「あなたの言葉には一貫性がない、一生かけて罪滅ぼしするって言っていたのに」

 

「それはつまり、死ぬまで連れ添ってもいいってこと?」と聞いた。

 

「死ぬまでならね」

 

彼らしい言葉に私は思わず笑ってしまった。

 

「死ぬまで?死んだ後は?」

 

「それは嫌だ」

 

私は笑いが止まらなかった。

 

私はどんなに頑張っても彼を苦しめることしかできないと思っていたから、こんな自分は早く死んだ方がいいと思っていた。なのに、その私を必要と思ってくれていたと知れて嬉しかった。彼曰く「頼み事があるかもしれないじゃん。だから身内には自分が死ぬまで生きて欲しい」と。

 

スキッドロウで暮らす約5000人の人々には、頼れる家族や友達がいない人がほとんど。独りで生きて行くしかない彼らは、スキッドロウに辿り着き、あるいはそこで育つ。幼少期から身内からの性的虐待やネグレクトを経験している人が圧倒的に多い。頼れるものが何もない中、少女は自分の身体を売って生き延びる。群がる大人たちの中にはヒモ、ヤクの売人やギャングが多く、彼らもまた複雑な家庭環境で育っている。

 

私はそんな彼らに共感する。私も似たようなものだけど、私には彼氏がいる。彼も幼少期から父親から虐待を受け、何度も死にそうになっている。でも彼は暴力を振るわない、とても優しい人だ。そんな彼が私を必要としてくれている。そんな彼から遠回しに一生連れ添ってほしいと言われた。これは、幸せなことだ。私は彼を見届ける覚悟を決めた。